評論Ⅱ評論Ⅱ510 マヨネーズのノズルの穴の形。実にささいなものだがこれが野菜の上のマヨネーズの姿を決めている。円か星型か、細長いスリットか、あるいは小さな穴の集合か。それによってサラダの上のマヨネーズの様相は、棒状、デコレーション状、きしめん状、ちぢれそば状などに変化する。 「マヨネーズ」ができるまでのプロセス。それは石油の採掘に始まる気の遠くなるようなものづくりの道筋をたどっている。 大地に巨大な石油採掘施設が構築される。その中でごう音を響かせながら、ポンプは地中から原油をくみ上げる。それはパイプラインや貯蔵タンクを経由し、港で巨大なタンカーへと移され、地球規模の距離をゆっくりと移動する。やがて石油化学コンビナートに運ばれ、それは精製されていく。そしてそのうちのごくわずかがマヨネーズの容器になる。 一方、中身の生産では鶏が活躍している。彼らは養鶏場でひたすら毎日飼料をついばみ卵を産む。その卵は食品工場に運ばれて、おそらくは巨大なタンクに投入され、油やその他の成分と混ぜ合わされ、うすベージュの半固形の食品に仕上げられていくのだ。 石油から生まれる容器と、鶏から生まれた食品は工場で出会い、中身が容器に注入され、封印され、薄いビニール156評論解析A ―― 構成を捉える一九五八(昭和33)年~。グラフィックデザイナー。岡山県生まれ。本文は「デザインのめざめ」(二〇一四年刊)によった。マヨネーズの穴から原はら 研けん哉や解析マスター① 主要な見解をつかむ 巻頭1 評論を読み解く 解析マスター評 論 解 析 A-11520筆者の主要な見解が述べられている形式段落を探し、その段落の最初の一文を抜き出せ。「マヨネーズの穴」と「デザイン」の共通点をまとめよ。まとめ解析の袋に収まってようやく「マヨネーズ」という製品に仕上がっていく。 さらにこれはテレビコマーシャルなどを通じて、宣伝される。きれいな映像と広告コピーが野菜を食べる喜びを説く。その勢いに押されてマーケットを通過し、それはついに運命の食卓へと進む。皿の上の野菜に照準を合わせ、いざ成就、というマヨネーズの一生にとっての決定的な瞬間を演出するのが穴の形。 壮大なプロセスの果てに「ぴゅっ」と絞り出される小さな結末。勝負は一瞬である。まあ、本当にたわいのないことだが物事の性質は、このような一瞬に左右される。 考えるに、デザインはある一面ではマヨネーズの穴のようなものだ。生産という遠大な営みの最後の最後の局面で人類のささやかな幸福のためにひと工夫する。ほんのひと工夫だが、そこで物事は品格を得たり台無しになったりするのだ。 もちろん、マヨネーズの穴はデザインの象徴ではない。ただ、しっかりと目を凝らすなら、そこから人類の営みの一端をのぞくこともできる。デザインの小さな哲学はそういう場所に潜んでいる。 スリット slit(英語)。切れ込み。裂け目。1評 論 解 析57 マヨネーズの穴から評論解析A ―― 構成を捉える評論解析A ―― 構成を捉える1520筆者の主要な見解が述べられている形式段落を探し、その段落の最初の一文を抜き出せ。「マヨネーズの穴」と「デザイン」の共通点をまとめよ。まとめ解析の袋に収まってようやく「マヨネーズ」という製品に仕上がっていく。 さらにこれはテレビコマーシャルなどを通じて、宣伝される。きれいな映像と広告コピーが野菜を食べる喜びを説く。その勢いに押されてマーケットを通過し、それはついに運命の食卓へと進む。皿の上の野菜に照準を合わせ、いざ成就、というマヨネーズの一生にとっての決定的な瞬間を演出するのが穴の形。 壮大なプロセスの果てに「ぴゅっ」と絞り出される小さな結末。勝負は一瞬である。まあ、本当にたわいのないことだが物事の性質は、このような一瞬に左右される。 考えるに、デザインはある一面ではマヨネーズの穴のようなものだ。生産という遠大な営みの最後の最後の局面で人類のささやかな幸福のためにひと工夫する。ほんのひと工夫だが、そこで物事は品格を得たり台無しになったりするのだ。 もちろん、マヨネーズの穴はデザインの象徴ではない。ただ、しっかりと目を凝らすなら、そこから人類の営みの一端をのぞくこともできる。デザインの小さな哲学はそういう場所に潜んでいる。 スリット slit(英語)。切れ込み。裂け目。1評 論 解 析57 マヨネーズの穴から評論解析A ―― 構成を捉える510140 「おまえは自分が生きなければならないように生きるがいい。」という言葉が好きだ。ロシア革命直前のモスクワの貧民街に生きる人々の真実を生き生きと描き出したロシアの作家レオニード・レオーノフの最初の長編「穴熊」に出てくる、名もない老帽子屋がポツンとつぶやく印象的な言葉である。 この帽子屋は、生涯一日に一個の帽子を作り続けてきた。「おれはもう老いぼれだ、どこへゆくところがあろう? 慈じ恵けい院いんへも入れちゃくれねえ……おら血も流さなきゃ、祖国を救いもしなかったからなあ。しかも目のやつあ――畜生め――針を手に取り上げてみても、針も見えねえ……糸も見えねえ。だからさ、な、若わけえの、おら役にも立たぬところをいつもむだに縫ってるんだ。……ただこの手、手だけがおれをだまさねえんだ……。」 そして帽子屋は、レーニンの軍隊がクレムリン砲撃を始める前日の、厳しく冷たい真夜中に、「古くなった帽子のように」誰にも知られず、石造りの粗末なアパートの隅で1231451 ロシア革命 一年にロシアで起革命。2 レオニード・レオ Leonid MaksimLeonov(一八九九~「穴熊」は一九の発表。3 慈恵院 貧しい寄りのない老人して援助をする1 「この手」が帽「だまさ」ない別の言葉で説明分はどこか。レオーノフの帽子屋 長おさ田だ 弘ひろし体験と思索Ⅱ体験と思索Ⅱ184実社会Ⅱ〈活動のポイント〉 ①グラフが示す情報の違いを比較して関連づける。②グラフの印象について話し合いながら考えを深める。 実社会へのアングル 国境を管理する 国を出入りするには、本欄のように一定の手続きが要求される。国としてのまとまりを保つため、政府が国境を管理して人や物の移動を制限しているからだ。 しかし、今や国際化の時代、国を越える移動が頻繁になり、情報は「ボーダーレス」で飛び交い、移民や難民も話題になっている。そこで、国をどう開き、どう閉じるか、時代に即した国境の管理が求められる。そうした国の行為を規定するのが文章Ⅱのような法令であり、これも見直しが重ねられている。19660M10M20M30M19701974197819821986199019941998200220062010201420180M10M20M30M出国日本人数(人)訪日外客数(人)(M=1,000,000)凡例出典:出入国在留管理庁パンフレット年別訪日外客数および出国日本人数の推移出国日本人数(人)訪日外客数(人)(年)●グラフⅠ7338358356798616228361036134116901621197417122404286931191789189517471849169916641545159917291753248625642434222425252321268527833032359541164658501505001000150020002500300035004000450050002006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年2016年2017年2018年万人訪日外国人旅行者数出国日本人数出典:観光庁ホームページ訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移●グラフⅡ文章を正確に読み解くため「主要な見解」「文章構造」などのスキルを習得選べて使える「見開き完結」評論解析12本特色❸ 1000字前後の文章を見開き構成8本+読み比べ2セット採録。様々な授業形態に合わせて選べて使える随想は評論学習にもつながる論理性の高い文章を選定。文章タイプの判別や資料の解釈など、読み解き方の基本を学ぶ特色36ページへ人生を真正面から問う随想4編、実用文は学校から社会まで各場面10本採録随想教材 や実用的文章 も充実特色❹ 42ページへ50ページへ05教科書
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