体験と思索Ⅱwasbornょう 吉よし野の 弘ひろし或ある夏の宵。父と一緒に寺の境内を歩いてゆくと確かる。物憂げに女は身重らしかった。父に気兼ねをしながらも僕は女の腹から眼めを離さなかった。頭を下にした胎児のごめきを女はゆき過ぎた。少年の思いは飛躍しやすい。その時した。僕は興奮して父に話しかけた。――やっぱり父は怪けげんそうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。――英語を習い始めて間もない頃だ。ゆっくりと。腹のあたりに連想しそれがやがて世に生まれ出ることの不思議に打たれていた。僕は〈生まれる〉ということが青い夕ゆう靄もやの奥から浮き出るようにまさしく〈受身〉である訳を白い女がこちらへやってく柔軟なうふと諒り解かIIいI5教科書 wasbornなんだね――wasbornさ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね――(「レオーノフの帽子屋」参考)紙面紹介 「レオーノフの帽子屋」101465555「レオーノフの帽子屋」の参考資料として、吉野弘さんの詩「I was born」を採録。複数要素で読みを深めることも可能です。
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