令和8年度用 探求 現代の国語 カタログ
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レオーノフの帽子屋弘ひろし長おさ田だ451けんい5i21体験と思索(随想単元)      Leonov(一八九九~一九九四)。 LeondMaksimovich「おまえは自分が生きなければならないように生きるがいい。」という言葉が好きだ。ロシア革命直前のモスクワの貧民街に生きる人々の真実を生き生きと描き出したロシアの作家レオニード・レオーノフの最初の長編「穴熊」に出てくる、名もない老帽子屋がポツンとつぶやく印象的な言葉である。この帽子屋は、生涯一日に一個の帽子を作り続けてきた。「おれはもう老いぼれだ、どこへゆくところがあろう?祖国を救いもしなかったからなあ。しかも目のやつあ――畜生め――針を手に取り上げてみても、針も見えねえ……糸も見えねえ。だからさ、な、若わえの、おら役にも立たぬところをいつもむだに縫ってるんだ。……ただこの手、手だけがおれをだまさねえんだ……。」そして帽子屋は、レーニンの軍隊がクレムリン砲撃を始める前日の、厳しく冷たい真夜中に、「古くなった帽子のように」誰にも知られず、石造りの粗末なアパートの隅で3慈じ恵け院いへも入れちゃくれねえ……おら血も流さなきゃ、1 「この手」が帽子屋を教材紹介 「レオーノフの帽子屋」 長田 弘1ロシア革命年にロシアで  一起こ九っ一た七革命。2レオニード・レオーノフ「穴熊」は一九二四年の発表。3慈恵院寄りのな  貧い老し人い人をや収容身して援助をする施設。「だまさ」ないことを、別の言葉で説明した部分はどこか。10140体体験験とと思思索索ⅡⅡ5454なぜ一所懸命に、人は生きて死ぬのか―老帽子屋の言葉と生き方を通し、生きることの意味を問う随想。

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