評論Ⅱ読む外と山やま滋しげ比ひ古こ5評論単元:〈知〉の深化 「その本は私が書いた。」と言えば、聞いた人は強い印象を受ける。一種尊敬の念を抱くかもしれない。大変な仕事をしたものだと少なくとも考えるであろう。それに対して、かりに、「その本は読んだ。」と言っても、聞いた人は何とも思わない。単なる情報である。だからどうした、というような関心は抱かずに、ああ、そうかと聞き流すにとどまる。書物が少なく、入手の困難な時代では、本を読むのは今よりももっと重要なことと受け取られていたに違いない。本を読むことがほとんど学者、高い教養人であるのと同じ意味を持つこともありえたのである。印刷術の発達普及によって大量の書物が出回るようになると、読者はいわば本の消費者になる。たくさんの本をゆっくり時間をかけ味読するようなゆとりがない。読み流す、読み飛ばす。何が書いてあるかわかればよいとする読書が増えるのはやむをえない。本1074内容解説資料2828
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