紙面紹介 6論理を組み立てる/「経済の論理/環境の倫理」510142 経済学というのは、ある面で現実にないような社会や人間関係の仕組みを考える、一種の「思考実験」の役割を果たしています。例えば「人間が合理的な存在である」と仮定したときにいったい何がいえるか、を徹底的に追求するということです。 経済学の父アダム・スミスはこう述べています。「人は自分の安全と利得だけを意図して行動するが、見えざる手に導かれて自分の意図しなかった〈公共の〉目的を促進することになる。」ここでスミスが「見えざる手」と呼んだのは、資本主義を律する市場機構のことで、資本主義社会においては自己利益の追求こそが社会全体の利益を増進する、といっているのです。これを別の言葉でいえば「道徳や倫理は必要ない」ということです。つまり経済学という学問は、「倫理」を否定することから出発したといえます。 環境問題というのは人々が倫理性を欠いているから起こる、というのが世間一般の常識です。言い換えれば、環境破壊は、資本主義が前提とする私的所有制の下での個人や企業の自己利益の追求によって引き起こされる、と思っているはずです。しかし経済学1*11 アダム・スミス Adam Smith(一七二三~一七九〇)。イギリスの自由主義経済学者。代表的な著作である「国富論」で「見えざる手」について言及している。1 経済学という学問が「﹃倫理﹄を否定」したとは、どういうことか。経済の論理/環境の倫理 岩いわ井い 克かつ人ひと学びの位置づけ(一四一ページ)6論理を組み立てる教科書教材紹介「経済の論理/環境の倫理」 岩井克人29経済学における「論理」の考え方と、未来の環境問題を論じる際に必要な「倫理」との関係について考えます。文章中にはグラフや年表も登場します。
元のページ ../index.html#31