紙面紹介 3視点を変える/「星の目で見る」64510 二〇二〇年一月以降、地上では、常にどこかの都市が封鎖され、どこかの国境が閉じられている。目に見えないウイルスは、海越え山越えひとりで旅するような力は持っておらず、人間を乗り物にして世界に広がってゆくものなので、人という乗り物の動きを制限して、その拡大を抑制することは、多くの疫病を生き延びた先祖たちが残してくれた、経験的な生き残りの知恵だ。 「ちょっと前までは、何も考えずに、あそこを飛んでいたのよね。」と思いながら、飛行機雲が引かれなくなって久しい空を、何度となく仰ぎ見る。人々は大地に固定され、引かれた境界線の枠の中での試行錯誤に右往左往をしているが、その上空では、大きな雲が形を変えながら、人間の境界線を悠々と越えて流れていく。 雲だけではない。窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素、リン、カリウム、セシウム、森林火災や火山噴火の煤すすと灰、マイクロプラスチック―数えきれない物質を含む、目には見えない粉ふん塵じんも、大気の風に乗って悠々と流れていく。命を支えるものも、命を脅11**231 二〇二〇年一月以降、……閉じられている。 本文執筆当時、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、各国で都市の封鎖や、国境を越える人の移動制限が行われていたことを指す。1 「人々は……」の一文の中で、「人々」と対比されているものは何か。2 アルゴン argon(英語)。元素記号はAr。希ガス元素の一つ。無色無臭の気体。空気中に一パーセント弱の濃度で含まれる。3 マイクロプラスチック 細かく砕けたプラスチ星の目で見る阿あ部べ雅まさ世よ学びの位置づけ(六三ページ)3視点を変える教科書「星の目で見る」 阿部雅世教材紹介23各教材冒頭には、いつでも「学びの位置づけ」に立ち戻って学習目標を確認できるよう、リンクが掲載されています。▶▶詳しくは18ページ目に見えない大気中の成分や粉塵を観測する宇宙ステーション・人工衛星を「星の目」として捉え、日常の思考に異なる視点を持つ重要性を考えます。
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